1分だけ、ポルシェのエンジンを整備しなければならなくなった話

日記

小さな小川が流れている。林に囲まれた小川は、鉄道か道路か、人の気配の近くにあった。

川の中に青い蟹が勢いよく泳いでいる。足には蛙のような水かきがあり、大層泳ぎが得意な種類のようだ。足元に泳いできて、浅瀬に乗り上げた蟹を拾い上げてみる。ばたばたと動かす水かき付きの手足が不気味で小川に放り投げる。

放り投げた先に魚影が見える。この小川沿いなら食糧に困らないなと思う。

水は透き通っているが、少し上流に目を向けると濁った水が流れている。小川の小さな段差にハンドボールとソフトボールの中間くらいの大きさの黒い丸がダムのように置かれている。黒い丸は黒飴のような外装に包まれていて、その中身が水をろ過している。

黒飴が置かれていないところから濁った水が下流にも流れ出ている。黒飴の袋をそこに押し込み、ろ過のダムをしっかりと形作る。

小川を抜けるとよく整備された芝生が緑に輝く丘陵地帯にでる。農場内の居住スペースのようだが、それにしては芝生がきれいすぎる。大富豪が芝生に相当なお金をかけて整備しているようだ。手前には車両小屋、奥に2階建ての白い家が見える。

白い家の2階にはアメリカ人の夫婦と渡辺謙がいる。夫は妻が目を閉じている様子を慈しむように見ている。彼女が死んでしまったことをゆっくりと時間をかけて受け入れたようだ。

渡辺謙が言う「彼女は1分だけ、ポルシェのエンジンを整備しなければならなくなった。」目を閉じているのは、死んでいるのではない。ちょうど彼女が別の世界でポルシェのエンジンを整備するための時間なのだった。

夫はその言葉に畏れを抱き、彼女が安らかに死ねない身体になってしまったことについて複雑な感情を抱いた。

渡辺謙は、そのことについて信念を持っていて恥じてはいない。彼女を愛しているわけでも、自らの技術に満足しているわけでもない。想像もできないが、別の信念を持っていた。

という夢を見た。