ジャームズ・キャメロンが映画化権を持ってるとか、持ってないとか噂の銃夢ですが、誰が映画にするにしてもやるなら6巻から9巻でしょう。
よくあるB級SFマンガだった1巻から5巻と同じ作品とは思えない展開が始まります。今でも6巻から読み始めると、とまらずに9巻まで読み終えます。一番好きなマンガの1つです。
ちなみに作者は完結からしばらくして銃夢の続編を出しますが、おすすめできません。LastOrderというサブタイトルがついた続編は、ついていけず脱落しました。木城ゆきともリュック・ベッソンのように私の好みのレールから反れていきました。
6巻からエンディングまでストーリーマンガによくあるダレとか無駄が少なく、1本の映画のようです。昔なら、ミラ・ジョボビッチにガリィをやって欲しいところです。
ちなみに、英語版はバトルエンジェル アリタという名前らしいです。有田テッペイが色んな芸人にボケ勝負を挑んでくような名前です。ガリィってのが人の名前としてしっくり来ないでしょうかね。それとも別の意味になっちゃうのか。
世界の仕組み
SFは設定がとっても大事です。
細かい話はおいておくとして、地理的なまとまりとして3つ
空に浮かぶ街ザレム。ザレムから落ちてくるゴミで成り立つクズ鉄町。クズ鉄町の周囲に広がるファーム。農場で生産される物品はクズ鉄町で集約されザレムに送られる。ザレムから派遣されたロボットが地上を支配しています。
勢力も色々ありますが、基本的に現在のシステムを維持する側(ザレム)と変えようとする側(バージャック)に分けられます。主人公のガリィは色々あってザレム側に所属しています。ザレムの支配体制を打倒しようとするテロリスト、革命軍のバージャック。他は、ガリィが追いかける犯罪者、ディスティ・ノヴァ教授。そして、大多数の無党派層。
この世界の仕組みがずっと物語を動かし続けます。
目的のない主人公
主人公は海賊王になりたいわけでも、地球を守ろうとしているわけでもありません。筋の通った目的をずっと持ち続けているわけではなく、気が付いたらザレムとバージャックの戦争の渦中にいました。記憶喪失で目覚めてから、多くの場面で生きることが唯一の目的になっています。
日本のマンガの特徴は、登場人物の未熟さです。ほとんどの物語は登場人物の成長にフォーカスがあてられます。バットマンやスパイダーマン(読んだことないけど)が完成された人格であるのに対して、日本の登場人物はかなり未熟です。
これは日本の美意識と関係があるそうです。中国の陶磁器で教科書に載るのはだいたい染み1つなく、シンメトリーな形をしています。一方、日本の国宝の茶器はいびつで色にもむらがあります。東照宮の陽明門の柱が上下逆だったり、東大寺の屋根に瓦が積んだままになってたり、建物の梁にかんなを置いたままにしておくのは、建物を完成させないためにわざとやってます。完成した瞬間から衰退に向かうため、未完成のままにしておきます。日本人は未完成、成長している過程に美を見出します。
そのため、日本にはロリコンが多いじゃないかと思います。ドラゴンボールで孫悟空が強くなり続けなければならなかったのもこのせいです。
銃夢もそれと同じ構造をたどるはずでした。銃が禁止されたクズ鉄町で主人公は素手で強敵に挑み続ける。そういう物語が5巻まで続きますが、クズ鉄町を離れる6巻から強さではなく人間の成長に焦点が当てられます。6巻以降、顕著に、と言っといた方がいいかもしれません。
生きるってのは悪魔だ
銃を使うことが禁止された街で、記憶をなくしたサイボーグが武術で生き残っていく。B級臭が強い設定で始まった銃夢は、ご都合主義をそぎ落としてだんだんと現実的になっていきます。
5巻でクズ鉄町を崩壊寸前まで追い詰めた敵をどうにか倒したガリィが、6巻でザレム側に簡単にとっ捕まってしまうのに象徴的です。5巻で強い敵にボコボコにされたのでしょうがないんですが、6巻のスタートからどんな時も何とかするヒーローではなくなります。こうしてガリィは、体制の奴隷になり、歯向かうと電気ショックで痛めつけられる存在になってしまいます。
革命軍のはずのバージャックに盗賊やら、殺人狂やらバトルマニアが集まってたり。自由を捨てて、奴隷を選ぶ裏切り者が現れたりします。ガリィはガリィで、手ごわい相手と素手でやりあったすえ、体制側の兵器で敵をボコボコにします。強い敵に対する敬意はあっても、生き残ることが優先されます。このあたりは、ガリィが女だってことが関係してるのかもしれません。男性に比べ、女性の方が体面とかあるべき姿に囚われることが少ないような気がします。たとえば、手強い敵に出会ったら武器を捨てても相手と対等な条件で戦わなければいけない、ということをあるべき姿だとか。
そして遂に、世界を変えよう!と叫ぶ若者に対して、軽々しく言うな、と既得権益のおっさんみたいなことを言います。もちろん、命をかけて世界を守ったのにザレムの奴隷にされたり、大切な人たちを何人も失った苦い過去があることは考えてあげなきゃいけませんけど。
左下が主人公のガリィ。上段は、ガリィの妹、みたいなもん。中段右がザレムのオペレーター。中断左がバージャックのボス
クライマックスから2歩昇る
7巻が終わるころになると、なかなか面白い話だなーと思います。6、7巻だけでも結構満足ですが、ここから物語は2歩昇ります。GRシリーズで1歩、ザレム人の秘密でもう1歩。
という訳でジェームズ・キャメロンには、なるべく早めに銃夢を映画にしてもらいたいもんです。
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